京の食を編む 春分
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京の食を編む 春分

京の食を編む春分

Fourth Dish春はたけのこ。

春はたけのこ。

少しずつ寒さも和らぎ、ようやく訪れる春に胸が高鳴ります。桜が満開の京都の山々には、新たな生命が芽吹きはじめていました。春といえばたけのこ。「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちは最高の一本を求めて大原野のたけのこ農園「京都義の(よしの)」にお邪魔しました。丁寧な手作業によって大切に育てられた「義の筍(よしのだけ)」は、柔らかな歯ごたえと豊かな風味が特徴です。明け方に収穫されたばかりの美しい筍をふんだんに使った一皿は、みずみずしい春の息吹に満ちていました。

生命の芽吹きを堪能する春

雨が降るたびに少しずつ暖かくなり、三寒四温の日々が過ぎると野山を山桜が彩ります。柔らかな日差しにいくぶん空気も和み、寒さに閉じていた山も新しい季節の訪れとともに賑わいが増してくるようです。生き物たちが目を覚まし、コゴミやフキノトウ、タラの芽などの山菜がきらきらと輝きだす頃、軟らかな筍が土の布団からひょっこりと顔を出します。京都のたけのこは身が柔らかく、透き通るような白さが特徴。特に収穫したばかりの朝穫れなら皮をむいてお刺身にできるほど“えぐみ”が少なく、むしろ新鮮な香りを損なわないようにあく抜きの「糠(ぬか)」を入れずに茹でます。

今回「リストランテ ラ・ルーチェ」の料理長、筒井 崇海と一緒に向かったのは京都大原野にあるたけのこ農園「京都義の(よしの)」。一年を通して丁寧に手入れをされた竹林は、さらさらと清潔な風が吹いていました。

生命の芽吹きを堪能する春
生命の芽吹きを堪能する春
生命の芽吹きを堪能する春
生命の芽吹きを堪能する春
風が吹くたびにさらさらと心地よい音が響く竹林。
満開の山桜とのコントラストが美しい。
丁寧に手入れが施され、青竹がのびのびと生い茂る。
成長した竹は太くなったり変化しないため、数字を書いて樹齢を管理する。

白く柔らかい“白子”を生む幻の土

京筍の歴史は1200年とも伝えられていますが、現在国内に流通している筍の90%は中国産で、京都産の筍となると全体の1%にも満たないそうです。どの筍も孟宗竹という品種でありながら、なぜ京都の筍は美味しく、また希少なのでしょうか。その秘密を株式会社「京都義の」の代表取締役、能瀬 義弘さんに伺いました。

「この大原野の一部地域では、“幻の土”と呼ばれる白い粘土質の土壌が特徴です。“テンコ”というのですが、牡蠣の殻などに含まれる炭酸カルシウムが主成分で、ミネラルや栄養分が豊富なため筍の栽培に適しています。うちの農地は約9000坪ですが、ほとんどがこの土でできているため白く柔らかい筍が育ちます。でも、土壌が良いだけでは駄目で、一年を通じて手をかけてやる必要があります。夏は雑草の駆除、秋はお米の収穫を終えたら藁(わら)を竹林全体に敷いて回ります。冬は斜面から土を削って藁の上にかぶせて、毎年軟らかい土を新しく作っていくんです。このミルフィーユ状の土壌こそがわたしたちの育てている筍の美味しさの秘密です。筍は空気に触れることで堅くなり、光に当たることで黒くなりますが、うちの筍は粘り気の強い土壌を押し分けて成長するため、なかなか穂先を地上に出すことができません。地中に長くとどまっているぶん日光や空気に触れずに成長するので、真っ白で柔らかい“白子”が育つのです」

白く柔らかい“白子”を生む幻の土

白く柔らかい“白子”を生む幻の土

白く柔らかい“白子”を生む幻の土

白く柔らかい“白子”を生む幻の土

自慢の竹林で筍の秘密について話す能瀬さん。/「幻の土」と呼ばれる“テンコ”は、光が当たると本当に白く輝く。/まだ土の中の筍を傷つけずに収穫する道具、「堀(ホリ)」の説明を受ける筒井。/掘り出した筍は「そのままでも食べられる」と嬉しそうだ。

七代にわたって守られてきた竹林

しかし、生産者は年々減少し、「義の」でも100本に1本しか収穫できない「白子」などもどんどん希少な存在になっているようです。そこには、京都特有のこだわりと、苦労がありました。白く美しい筍を守り抜く想いに触れました。

「うちは150年以上にわたって竹林を育ててきました。代々名前に“義”の字を授かり、私で7代目になります。子供の頃から竹林で遊ぶのが当たり前で、学生の頃には山ひとつ任せてもらっていたんです。自分の小遣いを自分で稼ぐという心づもりもありましたが、手をかけただけ綺麗な筍が育つ醍醐味も感じていました。でも、それだけなら筍農家は減っていきませんよね。藁と土を重ねる土作りは京都特有のものですが、重労働なのは間違いないです。しかも、一度放置したら最後、復活させるのは大変です。うちでは農薬や肥料も使わず、多くの人に協力してもらいながらすべての行程を手作業で行っています。春の収穫期は夜明けから作業を始めて休憩も取らずに掘り続けます。その数は数週間で6万本、重さにして約30トンです。子供の頃は春が来ると毎年家族総出で過酷な日々がはじまるという覚悟をしていました。最近は収穫の時期が早まったので、去年、生まれて初めてゴールデンウィークにバーベキューをしましたよ(笑)。息子が8代目になるかはわかりませんが、大変さと同時に筍を育てる面白さも伝えていくつもりです」

七代にわたって守られてきた竹林

七代にわたって守られてきた竹林

七代にわたって守られてきた竹林

七代にわたって守られてきた竹林

七代にわたって守られてきた竹林

筒井もホリを使って筍掘りに挑戦するものの、地下茎を探るのに難儀する。/掘りたての筍は香りがみずみずしい。/企業に勤めながら筍を育て、30歳で「京都義の」を継いだ。/「義の筍」たちは、朝収穫してその日のうちに出荷される。/守り、受け継がれ、大切に育てられる伝統と情熱。

筍は目の前でデクパージュされ、まるで堀りたてを頂いているような気分。筍は目の前でデクパージュされ、まるで堀りたてを頂いているような気分。
バジルと木の芽のソースは隠し味の白味噌が風味を豊かにしている。バジルと木の芽のソースは隠し味の白味噌が風味を豊かにしている。
「木の芽を食べると子供の頃の記憶がよみがえり、春が来たなと感じます。」「木の芽を食べると子供の頃の記憶がよみがえり、春が来たなと感じます。」
  • 筍は目の前でデクパージュされ、まるで堀りたてを頂いているような気分。
  • バジルと木の芽のソースは隠し味の白味噌が風味を豊かにしている。
  • 「木の芽を食べると子供の頃の記憶がよみがえり、春が来たなと感じます。」

筍の塩釜焼き 鰆のマリネby リストランテ ラ・ルーチェ

「竹林に吹く風が心地よく、堀りたての筍は実家で摘んだ山菜と同じような香りがした」と、筒井はさっそく筍を使った料理に取りかかります。一皿目は筍の風味を堪能できる「筍の塩釜焼き 鰆のマリネ」。まるで土から生えてきたようなインパクトのあるビジュアルがテーブルを盛り上げます。新鮮な筍は皮ごと塩釜で蒸し焼きにすることで香りと水分を閉じ込め、シャキシャキと新鮮な歯ごたえとほろ苦い春の風味が口の中に広がります。鰆は軽く炙ってスモークで香り付けしたものを木の芽とバジルのソースでマリネに仕立てました。ウドやスナップエンドウ、ラディッシュ、ウルイを添え、春の味覚を堪能できるひと皿です。「僕は自然が身近な場所で育ったので、菜の花や木の芽に春を感じます。春の食材はどれも旬が短いため、あれもこれもと欲張らずにそのとき手に入る良い素材に集中するようにしています」と、コンセプトについて話します。

宝船に見立てたキッシュはなんともめでたく、華やかな春の味わいと食感を堪能できる。宝船に見立てたキッシュはなんともめでたく、華やかな春の味わいと食感を堪能できる。
「春の食材ってあっという間に旬が過ぎるので、その瞬間を楽しんで頂きたいです。」「春の食材ってあっという間に旬が過ぎるので、その瞬間を楽しんで頂きたいです。」
3週間ほどウェットエイジングされた肉を特別にチルドで直送してもらっている。3週間ほどウェットエイジングされた肉を特別にチルドで直送してもらっている。
  • 宝船に見立てたキッシュはなんともめでたく、華やかな春の味わいと食感を堪能できる。
  • 「春の食材ってあっという間に旬が過ぎるので、その瞬間を楽しんで頂きたいです。」
  • 3週間ほどウェットエイジングされた肉を特別にチルドで直送してもらっている。

美蘭牛の炭火焼き
春野菜のキッシュ
by リストランテ ラ・ルーチェ

そしてもう一品はコースのメインに筍を添えたひと皿。北海道産の美蘭牛(びらんぎゅう)は生産量や流通量が極端に少なく「幻の牛肉」と呼ばれています。そのなかでも未経産の牛を「福姫」と呼び、今回はそのフィレ肉を使用しました。和牛の旨味とホルスタインのさっぱりとした脂のキレが特徴で、噛むたびに肉の旨味が溢れ出します。ソースは牛すじのフォン・ド・ヴォーと、鶏から出汁を取ったフォン・ド・ボライユにゆず胡椒を合わせたもの。深いコクと爽やかな辛さが肉の旨味を引き立てます。筍を使った付け合わせは、船に見立てたキッシュ。タマネギとベーコンのタルトにツボミナ、タラの芽、コゴミ、アンリーブ、ギョウジャニンニク、ホワイトアスパラガスをふんだんに盛り込み、春の豊かな恵みを宝船に見立てて表現しています。筒井は「生命の息吹をシンプルに表現しました。春はそれだけで十分幸せな気分になりますね」と、新たな季節の到来に喜びを感じているようです。

ひとさらの文脈

ひとさらの文脈

今回ご案内頂いた「株式会社ミナト」の皆さんも、「この時期の筍農家さんの奮闘ぶりを料理人に紹介できて嬉しい」と話すように、収穫の時期が来たらスピードが命。まさに竹の旬という文字通りの早さで成長する筍を手早く、大切に掘り出します。能瀬さんは「一本掘るのに10秒もかからない」と話していましたが、体験した筒井によれば「とても無理」とのこと。まだ夜も明けきらないうちから、筍が土を持ち上げるわずかなひび割れを見つけて鮮やかに掘り起こす。そのわずかな土の変化を見逃さないために、大切な山には家族でさえ立ち入れないといいます。こうした日々のサイクル、季節のリズムを繰り返すこと150年。堀りたてで頂く新鮮な春の恵みの向こう側に、悠久の伝統とそれを伝える守護者の想いを垣間見た気がします。春の陽気に包まれた京都は、久しぶりの賑わいを見せていました。

読むひらまつ。編集部 飯田健太郎

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〜京の食を編む〜

その土地の生産者と交わり、風土を理解し、食材に向き合うことで一皿の魅力を最大限に引き出すひらまつの料理人たち。なかでも京都は多彩な料理人の腕を堪能できる場所です。

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