京の食を編む 大雪
京の食を編む 大雪
京の食を編む 大雪

京の食を編む大雪

Third Dish冬のぬくもり、食の営み。

冬のぬくもり、食の営み。

吐く息も白く、ピンと張り詰めた冬の澄んだ空気に背筋が伸びる思いがします。旬で季節の訪れを味わう京料理において、寒さが厳しくなるにつれて存在感を増してくるのが伝統的な京野菜たち。そのルーツを求めて、「THE HIRAMATSU 京都」の「割烹 いずみ」の料理長、若松 裕樹と一緒に日本で最も歴史のある京都市中央卸売市場へお邪魔してきました。京料理の伝統と長い時を経て紡がれてきた思いに触れ、若松はこの季節に体も心も暖まる一品を仕込んでいます。

京料理の伝統を支える「京野菜」

京料理の歴史は平安京からはじまります。遷都以来、公家や武家、茶人や僧侶などの様々な料理文化が複雑に関わりながら、現在の京料理へと洗練されていきます。海から遠く離れ、周囲を山々に囲まれた盆地の京都では、とくに野菜のおいしさを引き出す料理が発展しました。煮炊きに工夫を凝らしたり、漬物にしたり、白味噌と和えたりと、冬の京料理の醍醐味は野菜にあると言っても過言ではありません。とくに露地栽培で冬の厳しい寒さに耐えた野菜はぐっと甘くなり、栄養分も豊富。「聖護院かぶら」や「金時にんじん」、「えびいも」や「堀川ごぼう」など、冬の主役が市場に出そろいます。

今回は「割烹 いずみ」の料理長、若松 裕樹と一緒に「京都市中央卸売市場」にお邪魔させていただきました。ご案内いただいたのは「京都青果合同株式会社」に所属し、初代「京野菜マイスター(※)」でもある松本 雄治さん。まだ陽の出ていない早朝からはじまる「近郷野菜(京野菜等)専門のせり」は、日本全国でもこの場所でしか見られない光景です。

※京のふるさと産品協会では、京野菜の魅力の情報発信に努めるなど、“京野菜の伝道師”として活躍されている方を、「京野菜マイスター」として認定しています。
(出典:https://kyoyasai.kyoto/meister)

京料理の伝統を支える「京野菜」
京料理の伝統を支える「京野菜」
京料理の伝統を支える「京野菜」
京料理の伝統を支える「京野菜」
京料理の伝統を支える「京野菜」
雪のように真っ白な「聖護院かぶら」。そのサイズの見事なこと。
縞模様が美しい「えびいも」も大ぶりで立派。
縁起物としておせち料理にも欠かせない「かしらいも」。
鮮やかな「金時にんじん」も採れたてが並ぶ。
聖護院だいこんや、近江の白ネギなど、近隣の農家からが夜のうちに運び込まれる。

農家の想いを支える
プロフェッショナル

季節によって味や色合いに違いが出る「京野菜」。「適地適作だからこそ感じることのできる旬があります。京都周辺の土地は肥沃で、昔からおいしい野菜がたくさん採れました」と、松本さんは話します。所狭しと並ぶ野菜たちの間を縫うように「せり人」と呼ばれるスタッフが移動し、仲卸業者さんたちが取り囲む様子は白熱そのもの。「市場へはよく行きますが、せりを生で見たのは初めて」と、寡黙な若松もいくぶん上気したように話します。騒然とした市場のなかを悠然と歩きながら「仲卸さんはお客さんのためにできるだけ安く仕入れたい、我々せり人はできるだけ農家さんの希望価格で売ってあげたい。こうして適正価格が決まっていくんです」と、松本さんは説明してくれます。

初代「京野菜マイスター」の松本さんが場内とせりを案内してくれた。

初代「京野菜マイスター」の松本さんが場内とせりを案内してくれた。

日本で最初に誕生した
中央卸売市場

「京都市中央卸売市場は1927年12月11日に日本で最初に作られた中央卸売市場です。1935年に開設された旧『築地市場』よりも古く、95年を超える歴史を誇ります。全国から集まる『遠地野菜』とは別に、京野菜や近江野菜などの『近郷野菜』だけを扱う卸売り場があり、近郷野菜を専門に取り扱う仲卸業者さんがおられるのが特徴です。私は農家で育ったものですから、野菜を自分で売ってみたいと思ってこの会社に入りました。農家さんの想いを知っているだけに、自分でせりを仕切っていたときはやはり熱が入りましたね。自然の環境で育った地場野菜は、季節を楽しむ京料理になくてはならない文化です。味はもちろん、見た目にもこだわっているのがいかにも京都の農家さんらしいと思います。真っ白な『聖護院だいこん』や中まで真っ赤な『金時にんじん』など、どの野菜も立派で綺麗でしょう!」

日本で最初に誕生した中央卸売市場

日本で最初に誕生した中央卸売市場

日本で最初に誕生した中央卸売市場

日本で最初に誕生した中央卸売市場

近郷野菜(京都府産・滋賀県産)専門の仲卸業者は品定めに余念がない。/広い場内に「せり人」の声がリズムよく響く。/いまどの商品がせりにでているか、竹の棒で示している。/初めて見るせりの迫力に、若松も興奮気味。

コースの始まりは、温かい一品でもてなす。コースの始まりは、温かい一品でもてなす。
見事なサイズの「聖護院かぶら」。口当たりが優しくなるように、丁寧にすりおろす。見事なサイズの「聖護院かぶら」。口当たりが優しくなるように、丁寧にすりおろす。
  • コースの一皿目に、温かい一品でもてなす。
  • 見事なサイズの「聖護院かぶら」。口当たりが優しくなるように、丁寧にすりおろす。

冬を楽しむ「かぶら蒸し」by 割烹 いずみ

「市場の活気は良い刺激になった」と、若松も仕事に熱が入ります。京野菜の魅力と生産者や関係者の熱い想いに触れ、旬の近郷野菜を堪能できる二皿を仕立てました。冬になると多く出回る根菜のなかでも、ひときわ立派な「聖護院かぶら」は「出汁が香る湯気のぬくもりと、ふわりとした口当たりを楽しんで欲しい」と、あたたかな「かぶら蒸し」に仕立てました。「伝統的な京料理では、白いものは白く炊くのが美しいとされています。素材の良さをしっかりと引き出した一皿でじっくりと温まっていただきたい」と話します。澄んだ出汁のうまみのなかに、甘鯛の甘みと塩みが引き立つ一品。すりおりしたかぶと卵白の雪のようなキャンバスに、「三つ葉」と「金時にんじん」がよく映えます。

絵画のような色彩の組み合わせが美しい一皿。絵画のような色彩の組み合わせが美しい一皿。
素材の味を生かすために、下ごしらえに手間暇を惜しまない。素材の味を生かすために、下ごしらえに手間暇を惜しまない。
  • 絵画のような色彩の組み合わせが美しい一皿。
  • 素材の味を生かすために、下ごしらえに手間暇を惜しまない。

京野菜の「炊き合わせ」
白味噌和え
by 割烹 いずみ

「京野菜は素材の味を活かす料理にぴったり」とコースを彩るもう一品が、白味噌を和えた「炊き合わせ」です。「大根のお出汁がすっきりとしているので、白味噌の甘さが優しく染み渡ります。お雑煮にも通ずる冬らしいお料理に仕立てました」と、若松。大根は箸を入れるとすっと切れるほど柔らかく炊かれ、ホクホクとしたにんじん、ほうれん草のシャキシャキとした歯ごたえがなんとも軽やかに仕上がっています。京都の老舗「山利(やまり)」の白味噌が甘く、師走につかの間の安らぎを与えてくれました。「この季節になると、料理人になって最初の冬が辛かったのを思い出すことがあります。だからお客様にも暖かい一品をお出ししたくなります」と、料理人の心が身に染みる一皿でした。

  • ひとさらの文脈

ひとさらの文脈

市場の朝は早く、まだ暗い空の下でキビキビと働く男たちの姿に目が覚める思いがします。京都府や滋賀県で採れる野菜を「近郷(きんごう)野菜」と呼び、専用の卸売り場で専任の仲卸業者さんが目利きをする。京都の食文化において、京野菜がとても大切にされているのを実感しました。「農家さんに作ってもらうには、しっかり売らなきゃいけない。そのためにはおいしく料理してもらって、お客様に喜んでもらって、京野菜の魅力を知ってもらうのが一番」と話す、松本さんのハスキーな声と優しい笑顔が印象的でした。

「水菜を使ったハリハリ鍋など、京野菜は鍋料理にもおすすめ」と聞き、さっそく自宅で鍋の具材に「金時にんじん」を使ってみたところ、鮮やかな赤色が実に食欲をそそりました。ホクホクと柔らかいのが気に入ったのか、1歳の娘もよく食べます。おばんざいから伝統料理まで、京料理の歴史と伝統を学ぶだけでなく、未来に繋げようとする熱い想いに触れる体験となりました。

読むひらまつ。編集部 飯田健太郎

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〜京の食を編む〜

その土地の生産者と交わり、風土を理解し、食材に向き合うことで一皿の魅力を最大限に引き出すひらまつの料理人たち。なかでも京都は多彩な料理人の腕を堪能できる場所です。

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